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東京地方裁判所 昭和59年(特わ)2860号 判決 1985年9月06日

本店所在地

東京都稲城市矢野口二六二二番地

丸勝商事株式会社

(右代表者代表取締役 城所俊雄)

本籍

東京都稲城市矢野口二五八四番地

住居

同市矢野口二六二二番地

会社役員

城所俊雄

昭和二〇年二月六日生

本籍

東京都多摩市一ノ宮九五三番地

住居

同時稲城市大丸六三三番地

会社役員

冨永覺男

大正八年九月二日生

本籍

東京都渋谷区東四丁目二七番地

住居

静岡県熱海市春日町一三番二〇号

団体役員

田栗敏男

大正三年四月二二日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官鹽野健彦出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

一、被告人丸勝商事株式会社を罰金六五〇〇万円に、被告人城所俊雄を懲役二年に、被告人冨永覺男を懲役一〇月に、被告人田栗敏男を懲役一年にそれぞれ処する。

二、この裁判確定の日から、被告人城所俊雄に対し三年間、被告人冨永覺男に対し二年間、それぞれの刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人丸勝商事株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都稲城市矢野口二、六二二番地に本店を置き、不動産の売買等を営む資本金二〇〇〇万円(昭和五七年九月四日以前は五〇〇万円)の株式会社であり、被告人城所俊雄(以下「被告人城所」という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているもの、被告人冨永覺男(以下「被告人冨永」という。)、同田栗敏男(以下「被告人田栗」という。)は、被告人城所の知人であるが、

第一  被告人城所、同冨永、同田栗の三名は、被告会社の法人税を免れようと企て、共媒の上、被告人城所において被告会社の業務に関し、被告会社の売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和五五年六月一日から同五六年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三億五八二九万九一〇五円で、課税土地譲渡利益金額が五億一五二一万九〇〇〇円あつた(別紙(一)修正損益計算書及び別紙(三)税額計算書参照)のにかかわらず、同五六年七月二七日、東京都八王子市子安町四丁目四番九号所在の所轄八王子税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が零で、課税土地譲渡利益金額が九四八七万四〇〇〇円であり、これに対する法人税額が一五二七万二八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五九年押第一五五七号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて不正の行為により、同会社の右事来年度における正規の法人税額二億四八八六万七四〇〇円と右申告税額との差額二億三三五九万四六〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ

第二  被告人城所、同冨永は、被告会社の法人税を免れようと企て、共媒の上、被告人城所において被告会社の業務に関し、被告会社の売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和五六年六月一日から同五七年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二一五九万六〇五二円で、課税土地譲渡利益金額が四七八九万五〇〇〇円あつた(別紙(二)修正損益計算書及び別紙(三)税額計算書参照)のにかかわらず、同五七年七月二八日、前記八王子税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が二二一五万一四九九円で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五九年押第一五五七号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一五〇六万一三〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判事全部の事実につき

一、被告人城所、同冨永の当公判廷における各供述

一、第一回及び第三回各公判調書中の被告人城所の供述部分

一、第一回及び第四回各公判調書中の被告人冨永の供述部分

一、被告人城所の検察官に対する昭和五九年九月二〇付二通(ただし、一三丁のものは被告会社及び被告人城所との関係のみで証拠となる)、同月二七日付、同年一〇月六日付及び同月八日付各供述調書

一、被告人冨永の検察官に対する昭和五九年九月二〇付、同年一〇月九日付(四丁表までのもの)―ただし、以上二通は被告人冨永との関係のみで証拠となる―、同年九月二七日付、同年一〇月四日付(七丁のもの)各供述調書)

一、岡部亮(昭和五九年九月二六日付、同月二八日付)、山本斉二、茂木幹夫、須田惣平、鳥居正義、寺島宗久、戸塚勇、谷口武次、保坂三郎、岩永紘一、藤長晃興(昭和五九年一〇月八日付)、藤田強、吉野英雄(昭和五九年一〇月四日付)、内藤桂、高橋千祐、河内和子(二通)、笛木幹夫及び石川泰弘の検察官に対する各供述調書

一、収税官吏作成の次の各調査書

1  土地建物売上高調査書

2  役員報酬調査書

3  従業員給料手当調査書

4  福利厚生費調査書

5  受取利息調査書

6  債券売買益調査書

7  債券受取利息調査書

8  支払利息調査書

9  課税土地譲渡利益金額調査書

一、検察事務官作成の昭和五九年一〇月五日付(租税公課勘定)及び同月一六日付(戸籍謄本等添付のもの)各捜査報告書

判示第一の事実につき

一、被告人田栗の当公判廷における供述

一、第一回及び第五回各公判調書中の被告人田栗の供述部分

一、被告人城所の検察官に対する昭和五九年一〇月四日付、同月五日付(本文一八丁のもの)及び同月七日付各供述調書

一、被告人冨永の検察官に対する昭和五九年一〇月五日付、同月八日付及び同月九日付(二通、四丁裏までのもの及び二丁のもの)各供述調書

一、被告人田栗の検察官に対する各供述調書(ただし、昭和五九年九月二〇付供述調書は被告人田栗との関係のみで証拠となる)

一、岡部亮(昭和五九年一〇月三日付、同月五日付)、吉野英雄(昭和五九年九月二三日付)、中野博明(二通)、川田裕司、平田諦、石井麻里子、長尾正八(二通)、川崎豊治、藤長晃興(昭和五九年一〇月二日付)、城所正明、新井紀元、太田定夫、谷内元有、植木英夫、大野五郎、真田泰輔、鶴見明雄(二通)、北澤善男及び福井勝四郎の検察官に対する各供述調書

一、収税官吏作成の繰越欠損金の当期控除額調査書

一、検察事務官作成の昭和五九年一〇月五日付捜査報告書(販売手数料勘定)

一、押収してある被告会社の法人税の確定申告書(昭和五五年六月一日から同五六年五月三一日までの事業年度分)一袋(昭和五九年押第一五五七号の2)及び社団法人アメリカン・ソサエテー・オブ・ジヤパンの法人税の確定申告書(昭和五五年四月一日から同五六年三月三一日までの事業年度分)一袋(同押号の4)

判事第二の事実につき

一、被告人城所の検察官に対する昭和五九年一〇月五日付(本文四〇丁のもの)供述調書

一、被告人冨永の検察官に対する昭和五九年一〇月六日付及び同月九日付(五丁のもの)各供述調書

一、吉野英雄(昭和五九年九月二五日付)及び藤長晃興(昭和五九年九月二七日付、同年一〇月四日付・二通、同月九日付)の検察官に対する各供述書

一、収税官吏作成の申告欠損金調査書

一、検察事務官作成の昭和五九年一〇月五日付捜査報告書(事業税認定損勘定)

一、押収してある被告会社の法人税の確定申告書(昭和五六年六月一日から同五七年五月三一日までの事業年度分)一袋(昭和五九年押第一五五七号の1)

(争点に対する判断)

被告人冨永の弁護人は、同被告人は、被告人城所が行つた被告会社の法人税ほ脱の実行行為に関与しておらず、せいぜい、その一部である被告会社の土地譲渡益に対する法人税のほ脱についての準備段階における行為に加担したに過ぎず、また、被告人城所らとの間で協議決定したのも、右準備段階における行為に関する事実に限られているから、被告人城所の本件犯行の一部についての従犯たる地位にあり、共同正犯としての責任を問うのは相当でない、と主張するので以下に検討する。

第一の事実について

当公判廷において取り調べられた関係証拠を総合すると以下の事実が認められる。

被告会社は、昭和五五年四月一七日戸塚俊雄から代金八億円で稲城市大字矢野口字西山三一一九番一外三筆の土地(公簿上の地積合計二万七七三六平方メートル)を買い受け、これを被告人城所が実質上の経営者である大和不動産株式会社(以下「大和不動産」という。)名義で登記したが、被告人城所は、地積のなわ延びが見込まれたため、地積の更正等の手続をする一方、転売先をさがし、同年一〇月中旬頃には、実測面積約一万二〇〇〇坪のうち三万三〇五九平方メートル(約一万坪)の土地(以下「一万坪の土地」という。)を株式会社三井の森(以下「三井の森」という。)へ代金一三億六〇〇〇万円で売却できる見込みとなつた。被告人城所は、右一連の売買によつて被告会社に多額の利益が生じ、そのままではきわめて多くの税金を負担しなければいけないので、売買益の大部分を裏に回して留保し、被告会社の将来の事業資金や自己の住宅取得資金等に充当しようと考え、売買益五億六〇〇〇万円のうち一億六〇〇〇万円を公表計上すれば、仲介手数料や諸経費を差し引き、さらに、被告会社の前期からの繰越欠損金を控除すると申告所得はなくなると判断し、差額の売買益四億円を簿外とすることにした。そして、被告人城所は、父の城所勝雄と付き合いのあつた社団法人アメリカン・ソサエテー・オブ・ジヤパン(略称ASJ)の理事長である田栗が、以前から、何か大きな取引でもやる時にはASJを通すと税金が全くかからないで済む旨公言していたので、三井の森への売却の過程にASJを介在させ、ASJに四億円の差益が生じたように仮装し、被告人田栗への礼金を差し引いた残金を裏で戻してもらうことを考えた。ところで、被告人田栗は、昭和四〇年代後半から昭和五〇年代前半にかけて継続していた城所勝雄と京王帝都電鉄との間の土地争いにつき関与したことが切つ掛けで同人と付き合いがあり、被告人城所とも面識のあつたものであるが、被告人城所は、被告人田栗と年齢も隔つている上、同被告人が笹川良一などとも親しく付き合いのある大物であるとしてその態度、話の内容などに圧倒される感じを持つていたことに加えて、他人の金をあてにしたり、金銭面にはルーズであるとも感じており、多額の裏金の返還を約する旨の合意をする相手としては安心できない人間であるとして不安を憶えていたことなどから、被告人冨永に被告人田栗との仲介をしてもらおうと考えた。被告人冨永は、稲城市の住民として以前から城所勝雄と面識があり、ことに京王帝都電鉄との間の前記紛争にあつては、城所側に立つて尽力したことから城所勝雄や被告人城所と親しさを増し、城所勝雄が市議会議員選挙に立候補した際には選挙運動を応援してやつたり、被告人城所が戸塚から買い受けた前記土地の地積更正作業について相談にのるなどしたほか、被告人冨永の経営する会社の資金繰りを被告人城所に支援してもらうなど親しい付き合いを続けていたものであるが、被告人田栗とも面識があり、年齢、貫ろくの点でもそん色がないので、同被告人との交渉でも十分対等に話のできる人物であると被告人城所は考えていた。そこで、被告人城所は、昭和五五年一〇月下旬頃から一一月上旬頃にかけて被告人冨永の自宅に同被告人を訪ね、同被告人に対し、戸塚から買つた西山の一万坪の土地が三井に売れることになつたが五億円以上の利益が出てしまうので税金の問題で困つていること、前に被告人田栗からASJを通して取引したようにすれば税金がかからないというような話を聞いたことがあるが、もしそういうことができるなら四億円くらいの差益をASJに移したようにして処理してみたいと思つていること、被告人田栗には二割の八〇〇〇万円を御礼に差し上げたいことなどを伝え、一緒に行つて被告人田栗に聞いてみてもらいたい旨依頼した。これに対し被告人冨永も、被告人田栗を口の上手ないわゆる事件屋的人物であるとみていたので、被告人城所の意図を理解し、同被告人との親子二代の親しい付き合いもあつて、同被告人の考えた脱税工作が成功するよう被告人田栗との話し合いを仲介するなど被告人城所の力になることを承諾し、その場で被告人田栗に電話をかけ、ASJの事務所で会うことの約束をとりつけた。そして、その頃、被告人城所と被告人冨永はASJの事務所に田栗を訪ね、被告人冨永が、公益法人であれば土地の売買をしても税金がかからないですませることができるのかと話を切り出したところ、被告人田栗から、公益法人の場合は無税だからうちの会を通せば税金はかからない旨の返答を得たので、被告人冨永において、被告人城所のところで土地を動かすことになり、多額の税金を支払わねばならないのでASJを利用することができるかどうか、さらに、ASJに四億円くらいの差益が出る形の売買にしたいが、二割の八〇〇〇万円くらいの御礼でできるかどうか尋ねたところ、被告人田栗は即座に肯定し、被告人冨永の右申出を承諾した。その後被告人城所は、被告会社が一万坪の土地をASJに代金九億六〇〇〇万円で売却し、これをASJが大和不動産に、三井の森への売却代金と同額の、一三億六〇〇〇万円で転売したように仮装するため虚偽の売買契約書を作成することにし、前者の契約書の作成を同年一一月一七日に、後者の契約書を同月一九日に、いずれもASJの事務所で行うことを被告人田栗と電話で打ち合わせ、またその旨被告人冨永にも伝えた。そして、被告人冨永は、同月一七日、ASJ事務所に被告人城所、同田栗及び山本斉二(被告会社の従業員)が集まつた際に同席し、席上、手付金名目のASJ振出し、金額三〇〇〇万円の小切手とその決済資金として被告人城所が用意した現金三〇〇〇万円が交換されたが、その時作成された被告会社を売主とし、ASJを買主とする一万坪の土地の虚偽の売買契約書に仲介人として署名押印するなどし、次いで、同月一九日、同所で被告人城所、同田栗及び岡部亮(被告会社の従業員兼大和不動産の代表取締役)が集まり、大和不動産振出し、金額一三億六〇〇〇万円の小切手とASJ振出し、金額九億六〇〇〇万円の小切手を被告人城所と被告人田栗がそれぞれ一万坪の土地の売買代金名下に交換し、ASJを売主とし、大和不動産を買主とする虚偽の売買契約書を作成した際にも立ち会い、同契約書にも仲介人として署名押印するなどし、さらに、同月二一日、三億五〇〇〇万円が被告人田栗から被告人城所へ戻される際にも被告人城所と一緒にASJの事務所まで赴き、銀行で受け渡しが終了するまで同事務所に留まるなど終始被告人城所と行動を共にし、この謝礼としてその頃、被告人城所から国産高級乗用車一台(諸費用込みで四二六万円余)を受け取つた。このような経緯を経て被告人城所は、被告会社の売上の一部を除外するなどして、同会社の昭和五六年五月期の法人税をほ脱した。以上の事実を認めることができる。

被告人冨永は、当公判廷において、昭和五五年一〇月下旬頃から一一月上旬頃にかけて被告人城所から相談された時には、二割の八〇〇〇万円の謝礼という話は出ておらず、ASJを介在させて売買をし税金を免れることができるかどうかということで相談を受けただけであり、最初に被告人田栗を訪ねた時にもその限度で口をきいてやつたに過ぎない、一一月一七日の時に謝礼は四〇〇〇万円くらいという話が出ていたのを聞いてはいたが、八〇〇〇万円もの謝礼が渡されていたと知つたのは昭和五七年の一二月になつてからである、一一月一九日にはASJの事務所には行つておらず、同日付の売買契約書への署名押印は一一月二一日になされたものであるなどと弁解し、被告人城所も、当公判廷において、被告人冨永の弁解に副う供述をする。しかし、被告人冨永の当公判廷での供述内容をみると、被告会社の法人税ほ脱について自己の関与の程度が小さいことを強調するあまり、被告人田栗のところへは脱税を頼みに行つたのではない、とまで言つてみたり、被告人城所と被告人田栗の話し合いに同席していながら、そこで話し合われた脱税工作の大筋についても聞いておらず、知らなかつたと言う不合理、不自然な点が多い上、被告人田栗への謝礼の詳細は知らないというものの、三億五〇〇〇万円が被告人城所へ戻された直後頃それまで多額の金銭の授受(特に借金)をしたことのない被告人田栗に借金を申し込み、同被告人から無利息、無期限で合計一〇〇〇万円を借用していることが認められることや、被告人田栗の当公判廷における供述並びに被告人ら、岡部亮及び中野博明の検察官に対する各供述調書の内容が明確に前記弁解を否定していること等に照らし信用できない。また、被告人城所のその点の供述も同被告人から被告人田栗へ渡される謝礼がどのような話し合いの過程で決められたのか、被告人冨永が虚偽の売買契約書作成時に立ち合つていたのか否かという重要な部分であるにもかかわらず、公判廷において被告人冨永の弁護人から質問されてはじめて捜査段階での供述の誤りに気がついたと述べるなど不自然であるばかりか、被告人冨永の弁解内容にできるだけ合わせて同被告人をかばおうという態度が窺われ、にはかに信用し難い。

以上の事実によれば、被告人冨永は、被告会社の法人税をほ脱するため被告人城所が行つた被告会社の売上の一部除外の不正行為(所得秘匿行為)に、実質的にも形式的にも関与しており、しかも、それは被告人城所との前述したような親しい付き合いがあつたため、同被告人のいわば後見人的立場から積極的に行われ、本件脱税の実現の過程において重要かつ不可欠な役割を担つていたことが認められ、また、事前に明確な約束があつたわけではないが、本件脱税に加担することによる利益の享受が予想されていたことが窺われ、現実にも前記のとおり利益を得ていることなどの事情を併せ考えると、被告人冨永は、被告人城所及び被告人田栗と共媒の上、被告会社の一万坪の土地の譲渡益に対する法人税を免れるため一体となつて前記不正行為を行い、ほ脱所得の大部分を構成する一万坪の土地の譲渡益に対する法人税を免れたものであり、共同正犯としての責任は免れない。

なお、被告人冨永が被告人城所らとなした右媒議は、被告会社の一万坪の土地の譲渡益に対する法人税を免れることを内容とするものであり、右媒議に基づきなされた所得秘匿行為の内容と、これに引き続く虚偽過少申告によるほ脱の結果とがすべての項目にわたり完全に一致しているわけではないが、第一の事実は、被告会社の昭和五六年五月期の法人税ほ脱として一罪であるから、被告人冨永が被告会社の第一の事実のほ脱結果の全部につき共同正犯となることについては多言を要しない。

第二の事実について

当公判廷において取り調べられた関係証拠を総合すると以下の事実が認められる。

被告人城所は、昭和五五年に三井の森へ売却した一万坪の土地の残余のなわ延び分の六四六一平方メートル(約二〇〇〇坪)の土地(以下「二〇〇〇坪の土地」という。)を昭和五六年になつて三井不動産株式会社の子会社であるパシフイツク不動産株式会社(以下「パシフイツク不動産」という。)へ売却しようとした際、かねて被告人冨永の経営する小海開発株式会社(以下「小海開発」という。)が多額の累積赤字を有することを知つていたので、前記売買の過程に同会社を介在させることにより前期と同じ方法で売買益を圧縮しようと考え、昭和五六年六月頃被告人冨永の自宅に同被告人を訪ね、同被告人に対し、前に地積更正で相談に乗つてもらつたことのある西山の残りの約二〇〇〇坪を近々三井に売つて処分したいと思つていること、小海開発に赤字がたまつていると聞いているので、三井との間に入つて契約した形をとつてもらいたいと思い相談にきたこと、及び小海開発に残る形になる差益は七〇〇〇万円くらいにしたいと思つていることを伝え、さらに、土地重課税分と御礼を差し引いて残金五〇〇〇万円くらいを裏で戻してもらうことで被告会社の第二の事実の所得秘匿工作に加わつてほしい旨の依頼をしたところ、被告人冨永が、赤字が相当あるから大丈夫だろうと述べてこれを承諾したので、細部については藤長晃興(被告人冨永の娘婿で小海開発の取締役)と打ち合わせて実行することに決めた。そして、被告人城所は、被告人冨永の指示を受けた藤長と打ち合わせるなどした上、売主の名義を被告会社の従業員らや大和不動産とし、買主の名義を被告人冨永、藤長、小海開発らとする虚偽の売買契約書を作成するなどして、被告会社から小海開発へ二〇〇〇坪の土地を一億九五四四万四〇〇〇円で売却し、これを同会社がパシフイツク不動産へ二億六五八〇万五五四〇円で転売したように仮装し、小海開発に生じた七〇三六万一五四〇円の差益のうち五〇〇〇万円を回収したものであり、差額の二〇三六万円余りは小海開発の資金繰りに使用されたが、同会社は、右取引を実際のものとして申告、納税した。このような経緯を経て被告人城所は、被告会社の売上の一部を除外するなどして、同会社の昭和五七年五月期の法人税をほ脱した。以上の事実を認めることができる。

以上の事実によれば、被告人冨永は、第二の事実についても同被告人の経営する小海開発が被告会社とパシフイツク不動産との売買の過程に介在したように仮装することを被告人城所から依頼されて承諾し、実行の細部については藤長に指示してこれを行わせるなどして、小海開発に土地譲渡差益が生じたように処理することで、被告会社の法人税をほ脱するため被告人城所が行つた被告会社の売上の一部除外の不正行為(所得秘匿工作)に関与しているもので、被告人冨永の承諾、指示なくして本件脱税の成功はあり得なかつたことが明らかであり、しかも実行の細部については藤長に指示してこれを行わせているが、同人から遂一報告を受けていたこと、小海開発の資金繰りのために二〇〇〇万円余りを使用することができるという利益が得られることから本件脱税に関与したものであることなどを総合すると、被告人冨永は、第二の事実についてもほ脱結果の全部につき共同正犯となることは明らかである。

以上のとおりであり、所論は採用できない。

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社

判示第一及び第二の各事実につき、法人税法一六四条一項、二項

2  被告人城所、同冨永、同田栗

被告人城所、同冨永の判示第一及び第二の各所為並びに被告人田栗の判示第一の所為につき、刑法六〇条、法人税法一五九条一項(被告人冨永、同田栗につき更に刑法六五条一項)

二  刑種の選択

被告人城所、同冨永、同田栗につき、いずれも懲役刑を選択

三  併合罪の処理

1  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

2  被告人城所、同冨永

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(いずれも犯情の重い判示第一の罪の刑に加重)

四  刑の執行猶予

被告人城所、同冨永につき、刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、稲城市周辺の不動産の売買を小規模に行つていた被告会社の代表取締役である被告人城所が、大手不動産会社の大規模な宅地開発を当て込み、稲城市大字矢野口字西山の山林を買収したところ、三井不動産株式会社系列の不動産会社に高値で売却できることになり、多額の売買益が見込まれたことから、被告会社の将来の事業資金や自己の住宅取得資金等に充当する裏金を留保するため、売買益を圧縮し、税金を免れようと企て、売買の過程に被告人田栗が理事長となつている公益社団法人アメリカン・ソサエテー・オブ・ジヤパン(略称ASJ)や被告人冨永の経営する小海開発を介在させ、被告会社の昭和五六年五月期において、四億円の売買益を圧縮するなどして、法人税二億三三五九万四六〇〇円を免れ、昭和五七年五月期において、七〇三六万一五四〇円の売買益を圧縮するなどして、法人税一五〇六万一三〇〇円を免れたというものであり、ほ脱額は、二事業年度分の合計で二億四八六五万五九〇〇円と高額である上、ほ脱率も、通算で九四・二一パーセント(昭和五七年五月期は一〇〇パーセント)と高率である。ほ脱の方法は、売上の一部除外、これにより留保された資金に基づく簿外預金の受取利息や簿外で取得した債券の売買益、受取利息の各除外、役員報酬の水増計上、従業員給与手当の架空計上等であるが、中心となる売上の一部除外の操作についてみると、いずれも公益社団法人であるASJ(判示第一の事実)又は赤字会社である小海開発(判示第二の事実)を売買の過程に介在させたという手段によるものであり、そのため、虚偽の売買契約書を作成し、手付金名下の小切手の授受を仮装するなどしたほか、特に判示第二の事実に関しては、圧縮分について小海開発において申告、納税を行わせた上、これを公表に受け入れるため被告人冨永が被告会社に同額を貸し付けたように仮装処理(借用証の作成、預金口座への入金等)するなどしており、また、圧縮金額についても被告会社や小海開発の繰越欠損金を慎重に考慮して決定しているなど、巧妙かつ悪質である。

被告人城所は、本件脱税を企図し、自ら前記ほ脱の方法を考案したものであり、他の被告人と連絡、協議してその協力を得、また被告会社の従業員等に指示して所得秘匿工作を実行するなど、本件脱税によつて直接的に利益を得る者であるとともに、犯行の主導的立場にあつた者であり、前記動機の面においても特段斟酌すべき事情はないと言わざるを得ない。しかも、昭和五七年一二月以降国税局の調査が開始され、ASJから戻された裏金の一部で設定していた二億六〇〇〇万円の定期預金の存在を把握され、その資金の出所を追及されるや。被告人冨永、同田栗と相談の上、ASJから被告人冨永を介して借り入れたもののごとく仮装し、追及を免れようとして、これに副う消費貸借契約証書を作成するなどし、また、ASJが売買契約の当事者であるとの主張を貫くため、被告人冨永とともに、圧縮分についてASJの所得として申告するよう被告人田栗に要請して、昭和五九年四月二日、預手二通合計五〇〇〇万円の交付と引き換えに虚偽内容の申告書を提出させるなどし、長期間罪証隠滅工作に奔走していたものである。

被告人冨永は、被告人城所から依頼されて各犯行に加担したとはいえ、土地売買益の圧縮について依頼を受けるや即座にこれを承諾し、判示第一の犯行にあたつては、被告人田栗の協力を得るために同人との仲介、交渉の役割をはたした上、虚偽売買契約書への仲介人としての署名押印をし、また後見人的立場で裏金の受け渡しが終了するまでを見届けるなどし、判示第二の犯行にあたつては、自分の経営する小海開発を売買益圧縮のために利用させ、それらの見返りとして、判示第一の犯行に関しては、被告人城所から国産高級乗用車一台(諸費用込みで四二六万円余)を受領し、被告人田栗から無期限、無利息で一〇〇〇万円を借用(後に被告人城所が立替弁済)する利益を、判示第二の犯行に関しては、圧縮売買益と被告会社へ回収された五〇〇〇万円との差額二〇三六万円余について小海開発の資金繰りに使用するなどの利益をそれぞれ得たものである。

被告人田栗は、判示第一の犯行にあたつて、自らが理事長となつているASJ(日米両国文化の相互理解紹介による新日本建設の使命を達成することを目的として戦後設立された公益社団法人であるが、近時右目的に副つたみるべき公益活動はしていない)を売買益圧縮のために利用させたものであり、犯行に加担する切つ掛けは被告人城所、同冨永から依頼があつたことによるとしても、日頃、ASJは公益法人なので取引をしても税金がかからないから利用するようにといつた趣旨の発言をしてASJを利用した脱税を慫慂していたことから右の依頼を受けるようになつたわけであり、後記刑の執行猶予期間中であつて十分自重自戒すべきであるにもかかわらず、被告人城所、同冨永から話がもちかけられるやASJを利用すれば簡単に脱税できる旨の返答をして判示第一の犯行に加担することを快諾し、その謝礼として八〇〇〇万円を受領(一〇〇〇万円は直後に無期限、無利息で被告人冨永に貸し付けているが、昭和五九年三月頃罪証隠滅工作に関連して被告人城所から立替弁済を受けている)しているばかりか、国税局の調査が開始された後罪証隠滅工作に奔走する被告人城所から種々金を出させようと企図していたことが窺え、結果的にも圧縮分についてASJの所得として申告することと引き換えに更に五〇〇〇万円を受領し、本件に関し合計一億三〇〇〇万円という多額の利益を得ているものである。加えて、被告人田栗は、昭和五四年一二月二〇日、東京高等裁判所で不動産侵奪罪により懲役二年、四年間執行猶予に処せられた外業務上横領、贈賄、詐欺等による前科三犯(いずれも執行猶予付)を有し、本件は右猶予期間中の犯行である。

以上の諸事情を考慮すると被告人三名の刑責はいずれも重大であるといわざるを得ないが、被告人城所については、被告会社の昭和五六年五月期から同五八年五月期(同五八年五月期においても土地売買益の圧縮があつた)までの三事業年度分につき修正申告の上、本税、重加算税、延滞税、地方税を完納していること、公判廷において事実を認め、昭和五八年に当選した市議会議員を辞職するなど反省の態度を示していること、前科前歴がないことなど、被告人冨永については、公判廷において種々弁解はするものの本件犯行に加担したことにつき反省悔悟していることは窺われること、脱税に関不して得た利益のうち被告人田栗からの借金一〇〇〇万円(被告人城所が立替弁済)及び小海開発に留保された売買圧縮益二〇三六万円余につき被告人城所に返還していること、その他本件犯行の動機、関与の程度、利得額などを総合考慮し、いずれもその刑を猶予するのが相当である。被告人田栗については、公判廷において事実を認め、本件に関しての利得を被告会社に返還する旨約し、担保を提供するなど反省の態度を示していること、高齢である上高血圧、心臓病の持病があることなど有利に斟酌すべき情状も存するが、前記の事情にかんがみると同被告人に対してはその刑の執行を猶予するのは相当ではないと思料される。

(求刑 被告会社につき罰金八〇〇〇万円、被告人城所につき懲役二年、被告人冨永につき懲役一年、被告人田栗につき懲役一年六月)

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田尾健二郎 裁判官 石山容示 裁判官 鈴木浩美)

別紙(一)

修正損益計算書

丸勝商事株式会社

自 昭和55年6月1日

至 昭和56年5月31日

<省略>

別紙(二)

修正損益計算書

丸勝商事株式会社

自 昭和56年6月1日

至 昭和57年5月31日

<省略>

別紙(三)

税額計算書(単位 円)

会社名 丸勝商事株式会社

自 昭和55年6月1日

至 昭和56年5月31日

<省略>

自 昭和56年6月1日

至 昭和57年5月31日

<省略>

(注) 2,627,992円は還付所得税額である。

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